イベント報告
<食業としての学問 ―研究職志望者のための相談会―>
平成19年4月21日、京都大学内総合人間学部棟1102教室にて、総人・人環同窓会事務局学生部主催のイベントである「食業としての学問―研究職志望者のための相談会―」が開催されました。 将来研究職に就きたいと考えている学生は多くても、制度化された普通の就職説明会などでは研究職は初めから除外されていたりで、その実情について聞く機会というのはなかなかないもの。そこでこのイベントでは、総人又は人環出身で研究職に就いていらっしゃる先生方と、研究職を目指して大学院で勉強中の院生さんをお呼びして、現役学生がお話を伺う場を設けました。これを機に研究職を目指す学生同士や、学生と先生の間に新たな交流が生まれることも狙いです。 プログラムは第一部が先生方と院生さんによる講演で、第二部では、参加者がそれぞれお話しをしてみたい先生のところに分かれて質問するという「グループ別質問セッション」が行われました。お越しいただいた先生は、文化人類学の金谷美和先生と、生物化学物理の金賢得先生、そして人間・環境学研究科の院生さんとして渡辺浩一さんの3人で、それぞれ「本音で語る」をテーマに、興味深いお話をしていただきました。また後半の第二部では、人環博士後期過程の奥住聡さんにも加わっていただいて、研究者の日々の暮らしについて、講演者の皆様が学生時代にはどうしていたか、今からやれる、あるいは今やっておくべきことは、など、研究職を目指す学生達から様々な質問が出ました。 ここでは、第一部の講演内容の要旨と、学生側の参加者の声をまとめてご報告します。
―講演要旨―
●金谷美和先生(日本学術振興会特別研究員 国立民族学博物館外来研究員)
研究職を選んだことに悔いはないが、順風満帆とは行かなかった。
研究者には、教員職と研究職を兼ねる人が多い。それでも実際にはなかなかポストがなく、職に就くには運と縁が鍵を握っている。一般的に言えば、公募に応募するケースが多い。特に常勤職はかなり狭い門で、殊に博士号を取ったばかりの若手で常勤職に就けるものはほとんどいない。逆にいま増えているのが任期制の職で、大抵の人はまずここから入っていく。また、研究費の問題もあって、これは日本学術振興会や企業財団などに応募して支給してもらうことになる。
最後に、アドバイスを。まず、1、学問を愛するいろんな専門分野の友人と交流を広げること。それから、2、勉強会や読書会などに積極的に参加して、自分の専門とは別だが興味があることにも取り組んでみること。仕事に就くと専門以外の本を読む時間は少ないが、学生時代はそういうことをたくさんするといい。3、研究職は何も日本だけではない。留学して海外で勉強したり、海外で研究職に就くのも重要な選択肢として考慮に入れるべきである。4、結婚や育児との両立に関しては、研究を中断せねばならない、とは思わないが、やはりペースダウンはする。苦労はするのはやむをえない。
●金賢得先生(京都大学 大学院理学研究科 助教)
大学時代は、何かに没頭することが非常に大事だ。そのことで自分を見つめなおすことが出来るし、その過程で自分の適性や自分が取り組みたいことが見えてくる。いろんなことを適当にちょっとずつ中途半端にやるのは絶対にいけない。ただ、語学だけはやっておいたほうが良いと思う。若いとやはり語学は習得しやすいから。特に英語でのディスカッション能力は大事で、将来の社交・人脈につながる。
研究室選択において、ブランドや人気は全くどうでもよい。いい教授でもいい教育者とは限らないし、何より過去や現在ではなく将来的な研究分野の盛衰が研究者としての就職に本質的な影響を与える。とにかく自分なりにたくさん情報を集めるのが肝心である。オープン研究室や教員へ直メールと云う手段もあるし、また教員の研究者としての質を調べるには、本人ではなくその研究者の周りの比較的近い分野の研究者に話を聞くのが一番良い。
大学院時代は、個人的に人生の中で一番努力したと言える。何かを犠牲にして努力が出来ないタイプの人は研究者には向いていない。人間、人生で何かをつかむためには、ある時期全てを犠牲にして努力しなければならない。自分はそれが院生のときだった。
ただ、実際のところ研究職に就くのは難しいし、常勤の教員に就けた人の中で本当にやりたい研究を出来るかといえば疑問である。研究費を得るため、仕方なくあてがわれた研究をせざるを得ないという実情は良く目にする。
研究者になるために重要な要素には、以下のようなものがある。1、良い指導教官や研究者とのめぐり合い。2、研究分野。理系は特に分野の流行り廃りが激しいのでそれを見極める能力が重要。3、精神的なタフさ。研究者は努力が必ずしも報われない。それでも続けていけるタフさ・図太さが必要。3、社交性、柔軟性。融通が利かず、頑固さと信念を取り違えている人や、自己満足で終わっている人、プライドが高い人は向いていないし、そういう人は実際にドロップアウトすることが多い。
●渡辺浩一さん(京都大学大学院人間・環境学研究科 博士後期過程2回生)
高校時代、興味、関心が広く、限定することが出来ず、スペシャリストではなくジェネラリスト、という総人の謳い文句にあこがれ、2000年に入学した。三、四回生になって段々学問が面白くなり、なんとなく院に進学した。今までやっていた学問では物足りず、もっとやりたいという意思があり、学問的野心もめばえた。
文系の院生の生活に関しては、文系は理系とは違い、朝起きて研究室に行く人もいれば行かない人もいる。行けば、ひたすら本を読む。そして研究仲間と勉強会などをして、喫茶店や飲み屋へ行き、夜中に帰宅する。文系は三年で博士論文は書けず、四年で書ければ上々。しかし奨学金は三年しかもらえない。それでも頑張って博士号を取得したところで、仕事はあまりない。
研究職に就かんとする者に必要な心構えについて。まずは諦めましょう。世間的成功、お金が欲しい人には向かない。また、学問と研究は違うのであり、文系の場合は特に就職口がなく、あったとしても自分がやりたいこととぜんぜん違う分野を求められることもしばしば。職業と云う点から言えば学問的才能は関係ない。むしろ職業的習熟、人付き合い、プレゼン能力などが求められる。これを研究したい、などと云うのは結局はゴールのようなところであり、それまでのプロセスではやはり話は別で、現実的世渡りが必要。
―学生からの声(一部抜粋)―
・研究職というよくわからない世界の話を身近に聞けてよかった。
・講演された3人の「伝えよう」という意思が感じられて嬉しかった。
・金谷先生の結婚・育児などのお話がすごくためになった。
・総合人間学部は、自分たちの学部の思いを伝えたいという意思が感じられてうらやましい(文学部2回生)
お越しにこられた方々、ご協力くださいました先生方、本当にありがとうございました。