第1回 総人・人環同窓会フォーラム

   閉会の挨拶          総合人間学部長 人間・環境学研究科長 冨 田 博 之

同窓会フォーラム「総人・人環の活かし方」

 植村さんのスライドの隅にある胸像、3、4期生までの人しか知らないでしょうが、これぞ本物の折田先生、来週から学内某所に再登場される予定です。湯川・朝永両ノーベル賞博士の生誕100年を記念して博物館で展示が催されますが、サテライトとして、両博士が学ばれた旧制第三高等学校の資料が、時計台記念館に展示される予定になっています。折田先生はまさにこの吉田南キャンパスの象徴――いい意味であってほしいのですが――でして、毎年、看板に書かれていたように、旧制第三高等学校の自由の伝統を築かれた初代校長であります。そのよき自由の学風の伝統を引き継いでいるのが、我が総合人間学部と人間・環境学研究科です。

 まず、講演をしていただいた卒業生の皆さんには、貴重なお話を提供して頂き、心からお礼申し上げます。それぞれの方が「辛口」と言いつつも、総合人間学部と人間・環境学研究科の良い面を強調していただきましたが、正直なところ我々教員自身が、まだ学部と研究科の目指すところ、どういった学生さんを育てるかということに確信を持てておらず、未だに、やはりまず専門性をたたき込むべきではないかとか、右往左往している段階です。その意味でも、今日のお話は我々教員にとってたいへん有意義な、耳の痛いお話でした。皆さん異口同音に「壮大なる社会実験」とおっしゃったわけですが、人体実験をやっているのかと思うと、身の震える思いでした。

 この水曜・木曜と、国立大学新構想学部代表者会議というのがありまして、東京まで行ってまいりました。2日目の午後は空きましたので、一期生の元女子学生さんと会う機会があり、今日の話も紹介しましたら大変懐かしがっていました。
この会議は、総合人間学部が設立された翌年に、私たちが提唱して第一回目を主催したものです。新構想学部とはいえ、総合人間学部ができる前に既にできていた東京大学教養学部や広島大学総合科学部も含まれています。この2つは、総合人間学部に大変よく似たところがあります。

 東京大学教養学部は、新制大学の発足と同時にできており大変な老舗なんですが、ご存じのように、東京大学に入学した学生の全員が2年間は教養学部に所属し、3年になるときに各学部に振り分けられて進学する、その中の一つに専門課程としての教養学部があります。広島大学の方が、総合人間学部と制度が似ていまして、学生定員は130人、教員が127人と、規模の面でも非常に近いのですが、すでに設立後30年を迎えています。

 総合人間学部を設立したときにも、この2つの学部を参考にしましたが、古典的な意味での単なる教養学や、専門科学の寄せ集めであってはならない、新しい時代を切り開く総合知の力、パイオニアの気概を備えた人材を育成するという理想を掲げて出発しました。 広島大学の方は、学部の創設は早かったのですが、大学院は昨年ようやく完成され、その際には人間・環境学研究科の構造を大いに参考にされたということです。

 このようにお互いに刺激しあい、互いの良い面を取り入れる改革を重ねているわけでして、広島大学では、昨年30周年記念事業を行われたときに、総合科学部の理念として「越境アドベンチャー」というキャッチコピーを創案されました。あそこは大変、こういう宣伝が上手で熱心な大学です。「越境」というのは、「ボーダーレス」ではなく「トランスボーダー」、積極的に意識的にボーダーを超えよということですね。ボーダーを超えようというときには、ボーダーが見えていないといけない、在学生の皆さんには、単なるボーダーレスではなく、まず自分の確固たる足場を固め、その上でボーダーを見極めてそれをどんどん越境して欲しいと思います。学部教務委員長の西井先生にも参加して頂いていましたので、こうしたいろんな大学の良い面を、これからのカリキュラム改革に積極的に取り入れて行きたいと思っています。

 今日参加された在学生のみなさん、どうか先輩達の活躍を目のあたりにして、これを大いなる刺激にし、自分の進むべき方向を探り続けていただきたいと思います。

 本日は、ほんとうに有意義な時間をもてたと思います。同窓会設立後1年もたたない時点で、こういう会を催していただけるとは予想もしていませんでした。世話人の方々に深くお礼申し上げます。

 どうかこれからも同窓会の早期確立を、ぜひお願いいたします。学部・研究科の教育研究を支援するような基金までは、正直なところ、まだ期待しておりません。まずは人とネットワークの確立を急いでいただきたいと思います。
本日はほんとうにありがとうございました。

(2006.9.30 閉会の挨拶より)