小島研究科長

人間・環境学研究科 研究科長
総合人間学部 学部長
小島泰雄

 

人間・環境学研究科棟

 人間・環境学研究科の名称にあるナカグロは、「加算的な意味合いの「・」ではなく、乗算的な意味合いのそれ」です。これは入学者募集の方針を示したアドミッション・ポリシーにある表現で、1991年に大学院として開設されて以来、大切にされてきた本研究科の本旨を端的に示すものです。ジンカン(人環)という略称を使う際にも、常にこのナカグロは意識されています。

 Scienceという西洋の概念に科学という訳語があてられたのは、19 世紀後半の日本でした。知識全般を指すことばであった Science が制度化され、物理学や社会学、歴史学などの様々な専門領域として編成される過程を「科の学」と捉えたものです。科学が日本社会に深く根付いて、その発展を支えていることは、科学的でない、という言葉がもつ否定的な意味を想起するだけでよくわかります。科学は技術と結びついて、近代における人類の発展を支えてきました。しかし20 世紀の終わりには、そのほころびが環境問題や経済格差、文化摩擦などの形で次第に明確になってきました。人間がめざしてきた豊かさを経済的な側面だけでなく社会や政治、文化から捉え、人類だけでなく生物や自然を含めた生のありかたを考えることが求められるようになると、科の学としての科学だけでそれに向きあうことには限界があると認識されるに至りました。本研究科は、まさにそうした科学観、世界観、社会認識の転換期に生まれたのです。

 それでは、人間・環境学研究科が時代の要請をうけて創られたことと、ナカグロとはどのような関係にあるのでしょうか。学際や融合、越境、横断、連携という理念と結びつけて語ることも大切ですが、ここでは本研究科の日常から考えてみたいと思います。本研究科は共生人間学・共生文明学・相関環境学の 3 つの専攻から構成され、その下位に14の講座、39の分野が配されています。そこに人文科学、社会科学、自然科学の研究者である教員と学生が分属しています。すなわち科の学に応じて本研究科は編成されており、それぞれの研究室において先鋭的な研究活動が行われ、優れた論文や書籍、学会発表として成果が生み出されています。確固とした専門領域の修得が無ければ、学問間の交流である学際や越境、融合もあり得ないのですから、指導教員や院生との対話が繰り返される研究室での活動が学生の日常となることは言うまでもないでしょう。

総合人間学部棟

 しかし閉じられた空間では乗算の効果は限られてしまいます。1×1では加算にも及びません。ナカグロは研究室のドアを開いたところから機能してゆくのです。人文科学の研究室から出ると、廊下の向かいには社会科学の研究室、並びには自然科学の研究室があります。教員だけでなく、学生も多様な専門領域の学生・教員と顔見知りとなります。他者の存在が常に意識され、その間で対話が始まります。また学生は自らの研究テーマに基づき多様な専門領域の科目を履修することで、専門外の知について深い理解を得ることができます。副指導教員を活用すれば、それはより高い次元への到達が可能となります。この多様性は、本研究科と一体となって運営されている総合人間学部から進学してきた学生だけでなく、日本と世界の大学から優れた学生が集まってくることによっても保たれています。ナカグロには、人間・文明・自然をめぐる現代的なるのです。諸問題に対応する新しい知を生み出す交流というダイナミズムが集約されているのです。

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