4月7日(水)に「第23回人間・環境学研究科フォーラム」新入生歓迎講演会・懇親会を開催します。
2010年03月10日掲載
新入生の入学記念として下記の講演会を実施します。
奮ってご参加ください。 事前申し込み等は不要です。
「第23回 人間・環境学フォーラム」
開催日時:平成22年4月7日(水)
◆ 新入生歓迎講演会 16:00-17:30
[人間・環境学研究科棟 地下大会議室]
『木陰』
酒井 敏 先生(相関環境学専攻自然環境動態論講座)
「京都の街は暑くない」 (16:05-16:40)
水野 眞理 先生 (共生文明学専攻歴史文化社会論講座)
「木蔭に詩あり」 (16:45-17:20)
司会:阪上 雅昭 先生
◆ 懇親会 19:00-20:30 [吉田生協食堂2階]
参加費:教員3000円,在学院生・職員1000円,新入院生500円,学部学生500円
【新入生歓迎講演会 講演要旨】
「京都の街は暑くない」 酒井 敏 先生
(相関環境学専攻自然環境動態論講座)
京都の夏の暑さは有名で、ヒートアイランドという言葉がすぐに頭に浮かびます。実際に街中を歩いていると、郊外に比べて明らかに暑く不快です。しかし、実際の気温を計ってみると、日中は京都の街中も郊外もほとんど違いがありません。実は、都市部と郊外の暑さの違いは「木蔭」にあります。
郊外の地表面は樹木の葉っぱに覆われており、葉っぱが太陽からの熱エネルギーを大気にうまく逃がすので、地表の表面温度が低く保たれます。それに対して、都市部ではコンクリートやアスファルトが直射日光で熱せられ、そこから強い輻射熱が放射されます。よく「熱せられたアスファルトやコンクリートにより、都会の空気が熱せられる」というような説明がされますが、これは逆で、大気に熱が逃がせないから地表面が熱くなるのです。
このように、自然の形には、人間が知らない秘密がまだまだ詰まっているのです。
「木蔭に詩あり」
水野 眞理 先生(共生文明学専攻歴史文化社会論講座)
16世紀英国の詩人でエドマンド・スペンサーという人がいます。この人の『羊飼いの暦』という詩集の中の2月の詩に「樫と茨」という挿話が出てきます。大きな古い樫の木蔭に生えている若い茨が、樫の木を疎ましく思い、主人に頼んで切り倒してもらったところ、雨や雪や霜が直接あたるようになって、茨は死んでしまった、という話です。この挿話は、英文学史上でエコロジカルな意識を明確に言語化したごく早い例です。
『羊飼いの暦』という作品は、古代ギリシャ・ローマで生まれた「牧歌」というジャンルに属しています。牧歌は現実の牧畜業を歌ったものではなく、文化的な存在である人間が自然環境と調和して生きる理想的な世界を歌っています。日差しの強い地中海世界のギリシャ・ローマでは、牧歌の舞台は真昼の日差しを避ける涼しい木蔭でした。そこで古代のシンガー・ソングライターともいえる羊飼いたちは、木蔭で休息し、笛を吹いたり歌を歌ったりします。これがルネサンス期のイタリアを経て英国に伝わり、気温の低い英国の自然環境に順応して書かれた最初の牧歌作品が『羊飼いの暦』でした。
講演では、詩に歌われた木蔭/木蔭の不在を紹介しながら、文学と環境の関わりの一端に触れたいと思います。
主催:人間・環境学フォーラム実施委員会