博士後期課程3回生の横井川美佳さん(田中真介研究室)が日本応用心理学会2021年度若手会員研究奨励賞を受賞しました
横井川美佳さん(博士後期課程3回生 共生人間学専攻 認知・行動科学講座 田中真介研究室)が、日本応用心理学会2021年度若手会員研究奨励賞を受賞しました。横井川さんは2022年9月17,18日に京都工芸繊維大学で開催された日本応用心理学会で受賞研究の発表を行い、同大会にて授賞式が行われました。横井川さんの研究題目は「発達に支援が必要な子どもたちとのポジティブな経験の重要性」です。日本応用心理学会は、心理学の基礎的な研究の成果を社会の具体的な問題解決に生かしていくことを目指した長い伝統のある学会です。「若手会員研究奨励賞」は、応用心理学に関する若手会員の優れた研究活動を支援するために設けられています。
研究概要:「発達に支援が必要な子どもたちとのポジティブな経験の重要性」
発達に支援が必要な子どもたちをどのように支援していくかは、今日の保育や教育、福祉の分野で大きな課題となっています。これまでの研究では、子どもの行動変容や保護者・支援者の困り感など「ネガティブ」な内容の改善が注目されてきました。それに対して本研究では、子どもたちへの関わりにおいて、保護者や支援者が、子どもの気持ちや行動を「わかった」と思えるような「ポジティブな経験」に着目しました。
保育者・支援者の「ポジティブな経験」として、本研究では「子どもの成長・発達の実現」や「保育者・支援者の保育・療育の力の熟達化」とともに「保育者・支援者と子どもとが温かな関係性を構築すること」が重要であることを見出しました。また、研究を通して、乳幼児期の発達支援では、行動面での変化以上に、子ども自身が「思い」や「願い」を発信できるようになること、そして保育者・支援者が、そのような子どもたちから発信される「言葉にならない言葉」としての心のメッセージを受け取って理解できるようになり、子どもたちとのあいだに温かな関係性を培っていくことの大切さが示唆されました。
子どもたちと関わる大人のポジティブな経験は、支援を求めている子どもたちの発達の貴重な変化との出会いであるとともに、保育・療育の中で大人が子どもに対する理解を深めて、やりがいや手応えを実感し、自己信頼性を高める貴重な契機となっています。また、大人の側のポジティブな経験は、子どもたちにとっても自分のことを「わかってもらえた」「大切にされた」というポジティブな経験となり、それが自己理解を豊かにして自分自身の価値と資質を実感する力(自己信頼性)となっていきます。さらに、子どもたちは、自分を温かく受け入れてもらえた経験を通して、自分と周りの世界とのつながりを豊かにし、家族や友だちとの絆を結ぶ力(社会的交流性)を育んでいくことができると期待しています。このような相互のポジティブな経験は、乳幼児期の保育だけでなく、小・中学校や高校・大学での教育にとっても普遍的に重要なことではないかと考えています。
以上のように、子どもたちを支えている保育者・療育者が感じてきた「ポジティブな経験」に注目した本研究の独創性と、発達に支援が必要な子どもたちへのよりよい支援のあり方を新たに提起した社会的意義が評価され、今回の受賞となりました。