博士課程3回生の稲葉渉太さん(柴田悠研究室)が関西社会学会第74回大会奨励賞を受賞しました

稲葉渉太さん(博士後期課程3回生 人間・社会・思想講座 柴田悠研究室)が、2023年5月21日に関西社会学会第74回大会奨励賞を受賞しました。稲葉さんの研究報告の題目と研究の概要は以下の通りです。

受賞研究報告


『「有責な人格」としての「自己」と「十分な自由」の概念分析-我々はいかにして「自己責任」を運用するのか-』
(関西社会学会第74回大会での奨励賞受賞者について | 関西社会学会Webサイト)

研究概要

 本研究では、いわゆる自己責任論を代表例として繰り返し批判されてきた自己責任概念がなぜ日本社会で用いられ続けるのかという問題について、その要因を、自己責任概念のもっとももらしさに着目することで明らかにした。
 日本社会において、自己責任概念はもともと経済、とりわけ金融・投資業界で体系的に用いられてきたものであった。本研究では、まずどのようにして金融・投資界隈で自己責任という概念が登場し、「自己責任原則」という規則にも現れるような専門用語として用いられるようになったのかについて、1970年代の資料に基づいた分析を行った。
 当時の日本社会にあって、投資などの証券市場に関わる諸活動は市井の人々に馴染みのあることではなく、人々の余剰資産の運用も概ね預貯金に限定されていた。そのような社会状況のもとで、金融・投資業界において、リスクを伴う証券投資などの活動を日本社会に浸透させていくことを議論するにあたって、どのような行為が投資者に責任帰属され、どのような行為が証券会社に責任帰属されるのかなど、責任の線引きが重要な論点となっていた。その責任の線引きを説得的に行うにあたって自己責任概念が金融・投資の文脈に登場し、繰り返し用いられるようになったことを本研究では明らかにした。
 さらに本研究では、自己責任概念が、先述の分析からもっともとされる用法に開かれながら、同時に、自己責任論に代表されるような理不尽な用法にも開かれることで、さまざまな出来事をきっかけに自己責任論を日本社会に召喚しうる厄介なものであることを考察から示した。

人間・環境学研究科パンフレット 総合人間学部パンフレット
English